2011年7月24日日曜日

イランのペットブームと道徳警察。犬を殺すなら私を殺せ!

Wall Street Journal翻訳記事)


イラン人たちは政府への抗議活動のためにインターネットを利用している。現在彼らは、イスラム教国的な布告を拒否するためにオンラインに殺到しているのだ。その布告というのは、“犬を売り買いする“ことについてである。

イランの愛犬家たちは、自分好みの犬を選ぶためや犬について学ぶため、またはペット話を語るために、“Woof Woof Iran Digital Pets”や“Persianpet”といった人気サイトを訪れている。

イランでは、番犬か警察犬以外は犬を売り買いすることは違法である。犬はイランでは“ハラーム”で、イスラムにおいて不浄だとされているのだ。最近まで、ペットとして犬を飼うことは欧米文化に傾倒した少数のイラン人に限られていた。

だが、家族と犬が遊んでいる映像を発信するアメリカの番組など、衛星テレビの影響で、イランでは犬を飼うことがステータスのしるしとなっている。

「誕生日の贈り物に、お互いが子犬をプレゼントすることが最新のファッションなのです」と、25歳のアミンさんは話した。テヘランから2時間の村におもむいてジャーマン・シェパードの子犬を買った彼は、それ以前に犬を飼った経験はない。

イランの犬の訓練士と子犬。イランのカラジ、ウーフウーフ犬舎の外で。


これに対してイランの当局は反撃している。去年、アヤトラ・ナッセール・マカレム-シラズィ師(イラン宗教界の長老)は、犬を飼うことを非難するファトワ(宗教令)を発表した。4月にイランの国会は、俗悪な西洋的価値観による現象の兆候だとして、犬を飼うことを犯罪だとする法案を通過させた。

今年の夏は、いわゆる道徳警察が“犬取締法”を実行するために町を巡回している。公共の場所で犬を連れているのを発見されたら最大500ドルの罰金、自動車内でキャリーに犬を閉じ込めておかなかった場合は車を没収されて免許停止など、罰則は様々である。

道徳警察に見つかることを回避するために、犬の飼い主たちは真夜中に散歩をしたり、ペットが歩き回れるように車で数時間の地方へ行ったりする。イランの犬の販売人たちは、血統のよい犬を10,000ドル(78万円ほど)で販売する。そして彼らは、犬舎に案内する客に目隠しをするなどというように、隠れて商売をしている。

ビークル犬を得るためにいちかばちかの冒険をした32歳の実業家のアリさんは、「狂っていますよ」と話す。「この経験の後、私は困惑しました。果たして私は犬を購入していたのか、それとも国際的な麻薬売買を行っていたのか……ってね」

去年アリさんがペットを購入するために出かけたとき、アリさんの友達は最初、彼を大きな商店街近くのテヘランの繁華街にある小さな電気店に連れて行った。だがそこは、犬を売る中年男性の店の入り口だった。アリさんがおとり警察官ではないことを確かめるための1時間におよぶ尋問のあと、彼は車に乗せられて秘密の犬舎に連れて行かれた。道中、彼は目隠しをされていたという。結局彼は気に入ったペットを見つけることはできなかった。

その後アリさんは、犬を購入するためにネットを利用した。グーグル検索は、北部の沿岸都市ラシトから南部のアワズまで、イランを横断して散在する10数の犬舎の国内サイトを表示した。

あるサイトは写真つきのデータベースで子犬を提供していた。最初に買い手は、望みの犬種によって500ドルから10,000ドルを銀行口座に送金しなければならない。そして、アリさんの話と犬販売HPの記述によると、トラック運転手が荷物の中に犬を隠して運び、禁じられたペットは2週間以内に届けられるという。

この犬販売サイトは、飛行機の乗客を経由してウクライナから届けられた偽の国際パスポートを所持した子犬を販売する。テヘランの国際空港の到着ラウンジで子犬を受け取ることができると、アリさんは告げられたという。面倒なことにうんざりさせられたが、彼はとうとう地元のブリーダーからビーグル犬を購入したのだ。

旅行するイラン人に金を払って彼らを違法な運び人に仕立て上げ、子犬たちを彼らのペットだと偽装して犬を輸入するのだと、犬の販売サイトは明かした。販売目的で犬を輸入することは禁止されているが、乗客が個人のペットを民間航空便に乗せることは許されているのだ。

ウクライナからテヘランへの航空便には、“パピー・フライト”というニックネームがつけられている。というのは、ウクライナから犬を輸入するサイトの運営者らによると、このフライトの乗客(ほとんどが大学生だ)の多くが、販売するための子犬を運んでいるからだ。

子犬販売者によると、去年空港当局はペットの輸入の税金を50ドルから800ドルに引き上げたという。ウクライナからの輸入をアメリカとトルコに転換した販売者もいる。そしてそこから、子犬はイランに向かうツアーバスとトラックのカーゴを利用して密輸されるのだと、販売人は話す。

「私たちはイランからヨーロッパ、そしてその外部にまで渡る大きく効率的なネットワークを持っていて、イラン人が犬と巡り合うための手助けをしているのだ」と、子犬販売サイトの30歳のオーナーは話す。彼は名前を公表することを拒んだ。

テヘランの芸術学部の学生サナズさんは、モスクワから来た学生からセントバーナードの子犬を買った。現在この子犬は小さなポニー(子馬)のサイズになり、彼女は自分の小さなアパートの部屋でどうしたらよいのか困惑している。

多くのテヘランの公園や付近の屋外施設の入口には、 “ペットの犬を施設内に入れることは完全に禁じられている”、という自治体の標識が立てられている。

「以前私は、犬を連れて散歩に行っていました。ですが警察が私を呼びとめて、犬を没収すると脅すのです。だから私は、今では犬をアパートの屋上に連れて行くのですが、犬が吠えないように祈っています」と、サナズさんは語る。他の犬の飼い主同様に彼女も、自分の犬を没収されることを恐れて姓名を公表したがらない。

ホワイトテリアの飼い主の24歳のミラドさんは、道徳警察との悲惨な争いを経験した。テヘランで、警察の車が彼に気づいて車を路肩に寄せるように指示したとき、彼は犬をフロントシートに乗せて友達の家から車で帰宅しているところだった。拒んだ彼を警察は自宅の玄関ドアまで追跡したと、彼は話す。犬を逃がすために車のドアを開けたが、警察官が車から飛び降りて銃を抜いて犬に向けたそうだ。

「私は犬の前に立って言いました。“犬を殺すなら私を殺せ”、と」。彼の話では、隣人たちが彼をかばうために出てきて、結局犬は殺されることも没収されることもなかったという。だが警察は、彼の免許を6か月間停止し、彼の車を3か月間没収した。


読後の感想:
読みながら訳していったのだけれど、すごく面白かった。ずっと、こういう記事を掲載したかった。私が海外ニュースの翻訳ブログを運営している理由のひとつが、邦字メディアではあまり報道されそうにない記事を紹介したいから。
英字記事を読むようになって私的に1番良かったと感じることは、欧米主要国や東アジア関連記事に偏っている邦字メディアではあまり報道されない地域のマイナーな記事を、自分の好みで自由に選択していくらでも読める、ということだと思う。
例えばこの記事のイランは、反西側的なガチガチのイスラム教国っぽいイメージばかりが先行する国だけれど、海外記事に色々目を通してみると、そこに生きている個人個人、特に若い世代は私たちと何も変わらないただの人間──可愛くてカッコイイものが大好きで流行に弱い、そんな普通の人間だということがよくわかる。そして普通の人間だからこそ、ペットブームの結果、イランでも捨て犬や放置犬や虐待などの問題が起きる可能性は無きにしも非ず……。

英文記事: A Craze for Pooches in Iran Dogs the Morality Police  
Western TV Makes Owning Pups Fashionable, Despite Ayatollah's Fatwa
JULY 18, 2011 By FARNAZ FASSIHI